2017.08.24 Thursday
国立大学の教員にセクハラ・アカハラが多い理由(愛媛大学)
一般に、学校におけるいじめ、嫌がらせは表面化しにくいことがあります。
それが中学・高校くらいの話なら、いじめる側もいじめられる側も未成熟なので、「よくあること」とか、「そういう人間関係のトラブルを経験して大人になる」、「解決するすべを学ぶ」という経験も得られるメリットが少なからずあります。
しかし、それが大学など、ほぼ成人した人たちのコミュニティとなると、ややこしくなります。
大学における嫌がらせは、性的な言動が主体のセクシュアルハラスメントもさることながら、「アカデミックハラスメント」と呼ばれる、大学特有の、表面化しにくい嫌がらせがあります。
大学教授は、自分が担当する科目について、何を教材にするか、どういう授業を行うか、合否のハードルをどのように設定するか、そして最終的に単位を与えるか否かという権限を持っています。
憲法にも記される「学問の自由」から派生した「大学の自治」という考え方からすれば、大学教授は、本当に自分の好きなようにこの合否の決定を判断することができるのです。
だから、単位を餌に女子学生へ性的な要求をしたり、飲み会への出席を強要したり、研究の手伝いと称して様々な雑務を押しつけたりします。
職場における上司の性的な言動や、不当な労働環境におかれるなどの不利益は、全権を有する社長に告げ口するとか、それでもダメなら労働基準監督署に苦情の申立てをすればいいし、そんな職場を辞めて他のまともな会社に移るという自由がありますが、学校においてはそれが難しいのが普通です。
一般的な大学にはハラスメント対策室的な機関があるものの、権限の無い普通の職員が兼務で担当して、学生の苦情を聞いて、書類を作成し、右から左に流し、加害者の教授には「こういう苦情がきているので気をつけてください」程度の訓告しかしません。私の知っている大学では、学長や理事長が握りつぶしたこともあり、その後、ハラスメント被害者が自ら教授と大学を相手取って裁判を起こすに至りました。
つまり、大学のハラスメント対策室は、せいぜい記録をとどめておくだけで、ガス抜き機能しかありません。
地方の国立大学の教授が横暴になってしまう理由
今回、毎日新聞がスクープしたこの記事によると、愛媛大学では様々なハラスメントが発覚しました。
これが私の想像する通りであれば、問題の教授は「ハラスメント」を通り越して、強制猥褻罪や強要罪に問われる事例だと思っています。
しかし、この事件はものすごくデリケートな問題をはらんでいます。
まず、セクシュアルハラスメントは、「性犯罪」です。例えば、被害女性としては、教授に対し、「謝罪して、二度とやらないと誓ってほしい」程度の反省を促せばそれでいいのに、たいていは「そのような事実は無い」「むしろ学生の方から誘われた」という反論を持ち出されると、いわゆるセカンドレイプのように、被害者がさらし者になってしまいます。「ちょっと胸をもまれただけ」「ちょっとお尻をなでられただけ」で裁判ざたにするのはいかがなものかと、関係者から説得される可能性があるのです。
それなりにまじめに授業を受けている学生に対し、飲み会や雑務のボランティアを拒否された腹いせに単位を認定しないというハラスメントに関しては、もはや訴訟も困難で、「あの学生は不勉強で、合格点に達していないから」と教授が言い張れば、反論のしようもありません。
学生にとって、退学や留年のリスクは、苦しい家計から学費を捻出してもらっていたり、奨学金(事実上の高額な学費ローン)を借りている場合、それは人生に影響するなのですから、あらゆるハラスメントを受忍せざるを得ない状況に追い込まれます。
しかし、これは私立大学でも同様で、国立大学特有の問題ではありません。
国立大学は何が問題なのか。
1.地方の国立大学は「無医村にやって来た医師」に等しい
そう、都会に住む人にとっては選びたい放題の大学ですが、地方に住む人たちにとって、特に国立大学は、医師のいない地域にやってきた医師のようなもので、数少ない選択肢なのです。
それがコトー先生のような優秀な医師ならともかく、藪医者だったらどうか。どんなに性格の悪い、どんなにヤバい人でも、それを信じてやっていかなければならないのです。
2.私立大学は評判と私学助成金が命
もし教授が学生に不当な行為を行ったとか、嫌がらせをして卒業に関わる単位を与えなかったことが公になったら、それが私立大学であれば、学校の名誉に関わります。最近だと同じ愛媛県の私立学校で不正があったのではないかとマスコミを騒がしている学校がありますが、悪い評判は学校の経営基盤に関わるのです。
その結果、例えば都築学園グループ(福岡県)の学長がセクハラで逮捕された後、運営する大学などの校名を変更するなどして、過去の事件の風化をはかりました。
また、卒業できない学生が多いと、学生の募集や指導に問題があるとされ、私学助成金を減額させられる可能性もあります。
つまり、正しい競争関係(一般の評価)があることや、助成金の増減が大学の経営基盤に影響することから、ハラスメントは起きにくい、起きたとしても教授に厳正な処分がくだされる可能性が高いということになります。
3.国立大学の教授の任免権は絶大な教授会が持っている
国立大学法人となった今も、憲法23条の規定や戦前の大学教育の反省から、「学問の自由が徹底された」という一方で、問題のある大学教授を懲戒するためには、評議会ないし教授会の決定を要します。私立大学に比べると、教授会は人事に大きな権力を持っています。そのため、国家公務員法に基づく懲戒免職規定(刑事事件で禁固・懲役以上の判決)に抵触するか、教授会にはかった上で多数の免職相当意見がなされない限り、教授をやめさせることはできません。もちろん、戒告・訓告などの懲戒処分も同様ですから、同じ職場で働く仲間を追い落とすような、または恨みを買うような行動をとれる教授はなかなかいません(恨みを買ったら自分も同じ目に遭うかもしれないし)。
4.地方の国立大学の教授は絶大な力を持っている
地方の大学教授の場合、例えば地方行政のオブザーバー役とか、首長や議員との付き合い、企業の重役とのパイプもあります。ハラスメント被害者も、「その教授に従っていれば、職にあぶれることはない」というメリットを享受することができるし、大学院生であれば研究機関への推薦なども期待してしまいます。つまり、学生にとってのハラスメント教授は、美味しいニンジンを持っている調教師のような関係でもあるため、ガマンを強いられてしまうのです。
以上、私の意見ではありますが、絶大な力を持った人とつきあうメリットには、その絶大な力が自分に向いたとき、ハラスメントとなって帰ってくるデメリットがあるということをお話ししたかったのであります。
もし、悩んでいる方がいるなら、ぜひとも法律家の相談を受けられた方がいいと思います。
セクハラ? 愛媛大教員、性的関係要求 大学調査後に退職 /愛媛
愛媛大 別の教員も学生が苦情 「体に触れる」「指導に問題」 /愛媛
それが中学・高校くらいの話なら、いじめる側もいじめられる側も未成熟なので、「よくあること」とか、「そういう人間関係のトラブルを経験して大人になる」、「解決するすべを学ぶ」という経験も得られるメリットが少なからずあります。
しかし、それが大学など、ほぼ成人した人たちのコミュニティとなると、ややこしくなります。
大学における嫌がらせは、性的な言動が主体のセクシュアルハラスメントもさることながら、「アカデミックハラスメント」と呼ばれる、大学特有の、表面化しにくい嫌がらせがあります。
大学教授は、自分が担当する科目について、何を教材にするか、どういう授業を行うか、合否のハードルをどのように設定するか、そして最終的に単位を与えるか否かという権限を持っています。
憲法にも記される「学問の自由」から派生した「大学の自治」という考え方からすれば、大学教授は、本当に自分の好きなようにこの合否の決定を判断することができるのです。
だから、単位を餌に女子学生へ性的な要求をしたり、飲み会への出席を強要したり、研究の手伝いと称して様々な雑務を押しつけたりします。
職場における上司の性的な言動や、不当な労働環境におかれるなどの不利益は、全権を有する社長に告げ口するとか、それでもダメなら労働基準監督署に苦情の申立てをすればいいし、そんな職場を辞めて他のまともな会社に移るという自由がありますが、学校においてはそれが難しいのが普通です。
一般的な大学にはハラスメント対策室的な機関があるものの、権限の無い普通の職員が兼務で担当して、学生の苦情を聞いて、書類を作成し、右から左に流し、加害者の教授には「こういう苦情がきているので気をつけてください」程度の訓告しかしません。私の知っている大学では、学長や理事長が握りつぶしたこともあり、その後、ハラスメント被害者が自ら教授と大学を相手取って裁判を起こすに至りました。
つまり、大学のハラスメント対策室は、せいぜい記録をとどめておくだけで、ガス抜き機能しかありません。
地方の国立大学の教授が横暴になってしまう理由
今回、毎日新聞がスクープしたこの記事によると、愛媛大学では様々なハラスメントが発覚しました。
これが私の想像する通りであれば、問題の教授は「ハラスメント」を通り越して、強制猥褻罪や強要罪に問われる事例だと思っています。
しかし、この事件はものすごくデリケートな問題をはらんでいます。
まず、セクシュアルハラスメントは、「性犯罪」です。例えば、被害女性としては、教授に対し、「謝罪して、二度とやらないと誓ってほしい」程度の反省を促せばそれでいいのに、たいていは「そのような事実は無い」「むしろ学生の方から誘われた」という反論を持ち出されると、いわゆるセカンドレイプのように、被害者がさらし者になってしまいます。「ちょっと胸をもまれただけ」「ちょっとお尻をなでられただけ」で裁判ざたにするのはいかがなものかと、関係者から説得される可能性があるのです。
それなりにまじめに授業を受けている学生に対し、飲み会や雑務のボランティアを拒否された腹いせに単位を認定しないというハラスメントに関しては、もはや訴訟も困難で、「あの学生は不勉強で、合格点に達していないから」と教授が言い張れば、反論のしようもありません。
学生にとって、退学や留年のリスクは、苦しい家計から学費を捻出してもらっていたり、奨学金(事実上の高額な学費ローン)を借りている場合、それは人生に影響するなのですから、あらゆるハラスメントを受忍せざるを得ない状況に追い込まれます。
しかし、これは私立大学でも同様で、国立大学特有の問題ではありません。
国立大学は何が問題なのか。
1.地方の国立大学は「無医村にやって来た医師」に等しい
そう、都会に住む人にとっては選びたい放題の大学ですが、地方に住む人たちにとって、特に国立大学は、医師のいない地域にやってきた医師のようなもので、数少ない選択肢なのです。
それがコトー先生のような優秀な医師ならともかく、藪医者だったらどうか。どんなに性格の悪い、どんなにヤバい人でも、それを信じてやっていかなければならないのです。
2.私立大学は評判と私学助成金が命
もし教授が学生に不当な行為を行ったとか、嫌がらせをして卒業に関わる単位を与えなかったことが公になったら、それが私立大学であれば、学校の名誉に関わります。最近だと同じ愛媛県の私立学校で不正があったのではないかとマスコミを騒がしている学校がありますが、悪い評判は学校の経営基盤に関わるのです。
その結果、例えば都築学園グループ(福岡県)の学長がセクハラで逮捕された後、運営する大学などの校名を変更するなどして、過去の事件の風化をはかりました。
また、卒業できない学生が多いと、学生の募集や指導に問題があるとされ、私学助成金を減額させられる可能性もあります。
つまり、正しい競争関係(一般の評価)があることや、助成金の増減が大学の経営基盤に影響することから、ハラスメントは起きにくい、起きたとしても教授に厳正な処分がくだされる可能性が高いということになります。
3.国立大学の教授の任免権は絶大な教授会が持っている
国立大学法人となった今も、憲法23条の規定や戦前の大学教育の反省から、「学問の自由が徹底された」という一方で、問題のある大学教授を懲戒するためには、評議会ないし教授会の決定を要します。私立大学に比べると、教授会は人事に大きな権力を持っています。そのため、国家公務員法に基づく懲戒免職規定(刑事事件で禁固・懲役以上の判決)に抵触するか、教授会にはかった上で多数の免職相当意見がなされない限り、教授をやめさせることはできません。もちろん、戒告・訓告などの懲戒処分も同様ですから、同じ職場で働く仲間を追い落とすような、または恨みを買うような行動をとれる教授はなかなかいません(恨みを買ったら自分も同じ目に遭うかもしれないし)。
4.地方の国立大学の教授は絶大な力を持っている
地方の大学教授の場合、例えば地方行政のオブザーバー役とか、首長や議員との付き合い、企業の重役とのパイプもあります。ハラスメント被害者も、「その教授に従っていれば、職にあぶれることはない」というメリットを享受することができるし、大学院生であれば研究機関への推薦なども期待してしまいます。つまり、学生にとってのハラスメント教授は、美味しいニンジンを持っている調教師のような関係でもあるため、ガマンを強いられてしまうのです。
以上、私の意見ではありますが、絶大な力を持った人とつきあうメリットには、その絶大な力が自分に向いたとき、ハラスメントとなって帰ってくるデメリットがあるということをお話ししたかったのであります。
もし、悩んでいる方がいるなら、ぜひとも法律家の相談を受けられた方がいいと思います。
セクハラ? 愛媛大教員、性的関係要求 大学調査後に退職 /愛媛
愛媛大(松山市)の女子学生が昨年4月、教員から性的な関係を迫られたとして、教員の処分を求めて大学側に相談していたことが21日、大学への取材などで分かった。この教員は、大学側が事実確認した後に依願退職している。
毎日新聞の情報公開請求に愛媛大が開示した関係資料によると、女子学生は授業の補助をするティーチング・アシスタント(TA)業務をした。しかし、本来は報酬があるTA業務が無報酬のボランティアになったといい、教員から「おわび」として食事に誘われたという。
その後、女子学生は人が少ない暗い場所にある駐車場に車で連れて行かれた上、教員から性的な関係を迫られたという。
ショックを受けた女性は大学の相談員に対し、「(自分に)被害が及ばないように処分してほしい。二度と関わりたくない。このまま教員を野放しにしてほしくない」と被害を訴えた。
別教員も嫌がらせ
また、愛媛大の別の女子学生は、別の教員の出張に同行した際、出張先でスナックに連れて行かれ、二人きりになった。不愉快に感じ、そのことを教員に伝えたところ、無視されるようになったという。さらに夜間や早朝に電話がかかってきたり、メールも送られてきたという。
女子学生は昨年6月、大学側に相談。相談を受けた大学の人権問題対策委員長が、部局長に対し、教員への注意喚起を依頼した。【花澤葵】
愛媛大 別の教員も学生が苦情 「体に触れる」「指導に問題」 /愛媛
愛媛大(松山市)の複数の男女学生が今年3月、教員が女子学生の体を触ったり、飲み会を断った学生に単位を出さないなどの対応をしたりしているとして、大学側に相談していたことが22日、大学への取材などで分かった。
毎日新聞の情報公開請求に愛媛大が開示した関係資料によると、3月1〜7日、複数の学生が、同じ教員による被害について大学側に相談した。
このうち女子学生2人は、教員が飲み会で女性の体を触ったり、飲み会を断った学生には単位を出さないなど対応が悪くなると相談。さらに、この教員は学会のため出張する際には必ず女子学生を同伴させていたという。学生は「飲み会を開くのをやめてほしい。指導できないのであれば、研究指導をしてほしくない」と訴えた。
別の学生4人も「(この教員は)女性を遅くまで連れ回し、体に触ったりする。研究室の指導から教員を外してほしい」などと訴えた。
また、男子学生2人は、この教員に「大学院進学後は研究室を変わりたい」などと伝えたところ、卒業に必要な単位を取り消されたという。「卒業判定が間近に迫っているにもかかわらず、どうしたら卒業できるかとの問いにも明確に答えてもらえない。人により態度が明らかに違う」などと相談した。
このほか、男子留学生は、この教員から進学に必要な科目の追試験を受けさせてもらえず、ストレスから睡眠不足が続いたため薬を飲むようになったり、髪が抜け落ちているように感じたという。
相談を受けた大学の人権問題対策委員長が、所属部局に対処を依頼し、対処結果について対策委員長に報告した。
愛媛大では、女子学生が昨年4月、別の教員(既に依願退職)から性的な関係を迫られたとして、大学側に相談していたことなども明らかになっている。【花澤葵】
JUGEMテーマ:犯罪
ツイート